(…これは、あなたの行きつけのカフェで起こるかもしれない、ちょっと笑える恋の物語です)
僕の行きつけのカフェには、名物店員がいる。 彼女の名前は、ののかちゃん(24)。
いつもニコニコ元気で、太陽みたいな女の子。 でも、彼女が名物なのは、その笑顔だけが理由じゃない。
そう、彼女は…とんでもないドジっ子なのだ。
「あちちっ!」と自分で淹れたコーヒーに驚いたり、砂糖と塩を間違えそうになったり(常連の僕が寸前で止めた)、彼女の周りでは、毎日何かしらの小さな事件が起きている。
でも、不思議と誰も彼女を責めない。 「ごめんなさいっ!」と全力で謝る彼女を見ていると、なんだか許してしまうし、むしろ「頑張れ!」と応援したくなってしまうのだ。
その日も、事件は起きた。
閉店間際、モップ掛けをしていた彼女が、僕の足元で盛大にすっ転んだのだ。
「きゃっ!」
どんがらガッシャーン!と派手な音を立てて、モップのバケツがひっくり返る。 幸い、水は僕と逆の方向にこぼれたが、彼女は床にべちゃっと座り込んでしまった。
「だ、大丈夫!?」
慌てて駆け寄る僕。 彼女は、涙目でこちらを見上げて言った。
「ご、ごめんなさい…!またやっちゃいました…」 「怪我はない?立てる?」
僕が手を差し出すと、彼女はその手をぎゅっと握って、ゆっくりと立ち上がった。 その瞬間。
彼女の足が、まだ濡れていた床にツルッと滑った。
「わっ!?」
僕の方に倒れ込んでくる、ののかちゃん。 僕は、彼女を支えようと、両腕でその体を抱きしめた。
至近距離で、目が合う。 僕の腕の中、彼女は顔を真っ赤にして固まっている。
心臓が、うるさいくらいに鳴っている。 これは、誰の心臓の音だ?
そして、僕らの唇は、まるで引力に導かれるように、自然に重なった。
柔らかい感触。 ほんのり香る、コーヒーの匂い。
これが、ののかちゃんとのファーストキス。 …なんて、ロマンチックな展開になるはずもなく。
「ご、ご、ごめんなさい!わざとじゃなくて!事故なんです!不可抗力なんです!」
唇が離れた瞬間、彼女はパニック状態で僕の胸をバンバン叩きながら謝り始めた。
「いや、分かってる!分かってるから落ち着いて!」 「でも!でも!私のファーストキスがこんな…!うわーん!」 「え、ファーストキスだったの!?」
僕もパニックだ。 もはや、ラブコメの最終回みたいなカオスな状況。
でも、大泣きしながら謝り続ける彼女を見ていたら、なんだか、どうしようもなく愛おしくなってきて。
僕は、もう一度、彼女の唇を塞いだ。 今度は、事故なんかじゃなく、僕の意思で。
驚いて目を見開く彼女。 その瞳から、涙がぽろりと一粒こぼれ落ちた。
僕たちのベロキスは、甘くて、しょっぱくて、そして、ちょっとだけハプニングの味がした。