Scene 1:二人きりのソファ、夜8時。
「ねぇ、こっちおいで」
テレビの光だけがぼんやりと照らす部屋。ソファの端に座るあなたに、彼女…夏木りんが、くすくすと笑いながら手招きをする。その声は、少し甘えていて、抗うことなんてできそうにない。
あなたが隣に座ると、彼女は満足そうに微笑み、ごく自然にあなたの肩に頭をこてんと乗せてくる。シャンプーの甘い香りがふわりと鼻をかすめ、心臓がドクン、と大きく跳ねるのがわかる。
「…今日、なんか疲れてる?」
あなたの顔を覗き込む、心配そうな瞳。その距離の近さに、あなたは息を飲む。彼女の唇が、ほんの数センチ先で、微かに開いている。潤んで、誘うように光っている。
もう、だめだ。
理性が焼き切れる音がした。あなたは、まるで引力に導かれるように、その唇に自分のそれを重ねていた。
Scene 2:それは「キス」ではなかった。
最初は、触れるだけの、優しいキスだった。
「ん…」
彼女が、愛おしそうに目を細める。その表情に安心して、あなたがもう少しだけ深く求めようとした、その瞬間だった。
世界が、反転した。
「…ふふ、捕まえた」
悪戯っぽく笑った彼女の舌が、なんの前触れもなく、あなたの唇をこじ開けて侵入してくる。それは、あなたが知っている「キス」という行為ではなかった。
驚きで固まるあなたを完全に無視して、彼女の舌は、まるで自分の庭を探検するように、あなたの口内を自由に、そして大胆に動き回る。上顎をなぞり、歯列を確かめ、そして、あなたの舌にじゃれつくように絡みついてくる。
抵抗なんて、できない。いや、する気も起きない。
脳が、じゅわ…と音を立てて溶けていくのがわかる。思考は完全に停止し、ただ、彼女が与える快感だけが、全身を支配していく。
Scene tHE FINAL:彼女は、すべてを奪っていく。
どれくらいの時間が経っただろう。
あなたが完全に身を委ね、彼女のなすがままになっていると、今度は彼女が、まるで獲物を味わうかのように、ゆっくりと、ねっとりと、あなたの舌を吸い始めた。
「ん、ちゅ…」
水音が、やけに大きく部屋に響く。
もう、どちらの唾液かもわからない。ただ、熱い。息が、苦しい。でも、やめてほしくない。
あなたのすべてが、彼女に吸い取られていく。理性も、思考も、体力も。魂ごと、根こそぎ奪われていくような感覚。
唇が離れた時、あなたはソファにぐったりと倒れ込むことしかできなかった。焦点の合わない目で彼女を見ると、そこには、満足そうに唇を舐め、妖艶に微笑む「知らない女」がいた。
「…おかわり、いる?」
その声は、悪魔の囁きか、それとも天使の福音か。
どちらでもいい。あなたは、ただ無言で頷くことしかできなかった。この快感からは、もう二度と逃れられないのだから。